「銀髪の男を探せっ!手負いだ、すぐに見つかるぞ!」
 「無色を連れている可能性がある、無色には傷1つつけるな!」


 そんな声は、黒の街から聞こえ大勢の男の大きな声があちこちから聞こえた。それと共に、ガシャガシャと金属がぶつかる音も一緒に聞こえてきた。それは水音にとって聞き覚えのある音だった。
 湖からこの世界に来て、水音を探していた白騎士達の甲冑を着た人々の音だ。


 「…………シュリっっ!」
 「おっと!今度はどこにいくの?」
 「もう離してください!あなたは、どうして私に構うんですか?」

 
 白騎士は「銀髪の男」を探しているようだった。それは、たぶんシュリだと水音にもわかっていた。早くしないとシュリが白騎士に見つかってしまう……。普段の彼なら、湖から逃げた時のような、あの駿足で逃げられるかもしれない。

 けれども、今は大怪我をしているのだ。
 見つかって逃げられるとは思えない。
 白騎士は白蓮たちの手駒だ。シュリが捕まったら何をされるかわからないのだ。

 一刻も早くシュリの元へ行って助けたいのに、目の前の男が何故か邪魔をしてくるのだ。
 さすがの水音も、大きな声を上げて、彼の顔を思い切り睨み付けた。


 「僕は、齋藤エニシ(さいとう緣)だよ。」
 「…………エニシさん、だから……!」
 「男たるもの、かわいい女の子が目の前にいたら声を掛けたくなるものだろう?」
 「………。」


 水音は唖然としてエニシをマジマジと見てしまう。エニシは至って真面目のようだ。
 所謂女たらしという男性を初めて目の当たりしたので、水音は驚くのと同時に、どのように対処すればいいのかわからずにいた。
 しかし、こうやっている間にも、シュリが危険な目にあっているのかもしれない。
 そう思うと、水音は体が勝手に動いていた。


 「では、エニシさんにお願いがあります。」
 「おお!何でも言ってくれ。女の子の願い叶えないとね。」
 「あ、ありがとうございます………。この路地を真っ直ぐいった辺りに、古いですが立派なお屋敷みたいな廃墟がありますよね。」
 「あぁ、元白蓮の別荘だね。」
 

 エニシの発言は、水音には初耳の事だった。
 何故黒が住むところに、わざわざ別荘など建てるのだろうか?物好きだったのか………そんなことを思ってしまう。


 「そこに、私の友人がいますので、助けてください。」
 「おお、わかった!……で、君はどうするのだい?」


 エニシの気が緩んだ瞬間、水音は腕を引いてすぐに裏路地の奥へと走った。

 
 「後で追いかけます!だから、必ず助けてくださいね、エニシさん。」
 「おい、一人では危ないよ……って、行ってしまったか。どうやら、今回の無色はおてんば娘のようだね。」


 水音の後ろ姿を見つめながら、エニシがつぶやいた言葉を水音は聞くことはなかった。