「黒の刻印の者は、日没後の外出を禁止する。ってのがあるでしょ?忘れたの?」
 

 人指しを立てて、教示するようにするように男は教えてくれた。
 水音は内心では驚いていたが、表には出さないように「そうでしたね。」と曖昧に返事をした。
 シュリは夜中に出て行っていたので、そんなルールがある事は知らなかったのだ。
 派手な男は、水音の事を黒と勘違いをしていたが、無色とバレるよりは良いと話を合わせる事にした。

 「それより、その服の汚れは血かい?怪我をしているのかな?」
 
 灰色のシュリの部屋着は、所々に血がついていた。もちろん、それは水音の物ではなく、シュリの者だった。

 「私は大丈夫です。でも、知り合いが大怪我をしているんです!だから、助けを………。」
 「黒の刻印の者を誰が助けるの?」
 「………え?」
 「黒を診てくれる医者なんて、闇医者ぐらいだ。黒の領地で探すしかないね。」


 そう言って男は、ちらりと後ろを振り向いた。
 大通りの明るい景色とは一変して、黒が住む場所は真っ暗闇だった。
 この中からお医者さんを探すのは至難の技だろう。水音は、途方にくれてしまう。


 「こっちの明かりの方は……….。」
 「青草の住む場所で、もっと奥には白蓮がある。こことは天国と地獄の差だろうね。」


 本当にその通りなのかもしれない。
 苦しんでいる人がいるのに、助けない。それはおかしな事だと思う人はいないのだろうか。
 それが当たり前だと、本当に思っているのだろうか。


 「でも、もしかしたら、助けてくれる人がいるかもしれません!」
 「…………。」


 水音の必死の希望を託した言葉を聞いても、その男は首を横に振るだけだった。
 先程からずっと笑ったままの顔は、この時はとても寂しそうであり、苦しそうでもあった。

 何とか説得して、掴んだ手を離してもらおうとした時だった。