その後、シュリはすぐに仕事に行ってしまった。
 水音は、いつも寝ている床の上に座り、くすんだ青色をしてクッションをぎゅーっと抱きしめていた。


 「シュリは、何を隠しているのかな?やっぱり仕事の事かな?」


 水音は、独り言を言いながらさきほどのシュリとの会話の意味を考えていた。

 シュリは、まだ自分の事をほとんど教えてくれていない。水音だって、話していないけれど、それはこの国の事を知るのが先だと思っているからだ。
 それは、ただ異世界に飛ばされただけならば、もしかしたら状況が違ったかもしれない。
 水音は、来た瞬間からこの世界に住む誰もが欲しいと思う存在になってしまったのだ。

 自分がどうなってしまうかなんて、一瞬で決まるのだろう。
 でも、シュリはそうはしなかった。
 恋人になったとしても、シュリの願いを必ず叶えろとは言ってこないだろう。


 その願いは、水音を迷わせるには十分なものだからだ。

 シュリの願いは、今の階級を変える事だ。
 黒の刻印を持つものが、白蓮になり、逆に白蓮が黒の刻印となる。
 そうなったら、大騒ぎになるだろう。黒だったものは、きっと白蓮に今までの仕返しとして強い力を使って痛めつけるだろう。
 そして、白蓮は今までの生活から一転してしまうのだ、絶望で生きる気力をなくなるかもしれない。
 だからと言って、今のままでいいと思わない。


 結局、どうしたらいいのか、まだわからないのだ。
 だから、彼の願いを叶えられるかわからない。



 そして、元の世界。
 これについては、水音は全く未練はなかった。
 仕事は好きだったわけでもない。生きるために、やっていた事。大切な親や兄弟もいなければ、友達もいない。恋人ももちろんいない。
 未練があるとしたら、大好きな小説の続きが読めないぐらいだ。

 この異世界がとても住みやすく魅力的か、と言われれば、それ違う。
 いつ殺されるか、利用されるかわからない。だから、とても怖い。

 でも、どうにかしたいとは思うのだ。
 この家に住み、優しくしてくれたシュリのために。