「………シュリ、おかえりなさい。」
 「おまえ、起きていたのか……。」


 ロウソクの火はいつの間に消え、部屋は火の石の淡い光だけで照らされていた。
 小声でシュリに声を掛けると、シュリは驚いた顔を見せた。

 ゆっくり立ち上がり、シュリに近付く。
 すると、シュリの手や胸元、そして顔も汚れていた。


 「何をしてきたの?汚れているよ?」


 水音が彼の顔に手を伸ばして触れようとした瞬間。


 「触るなっ……….。」


 シュリは、咄嗟に後ろに下がり水音を避けた。
 その態度に、水音は驚いた顔を見せてしまう。ばつの悪そうな顔を浮かべながら、シュリは水音から顔をそむけた。

 水音は、腕を戻し「ごめんなさい。」と謝り、どうしていいかわからずに俯いた。すると、フッと妙な匂いを感じた。これは、鉄の匂い………?


 「シュリ、もしかして、それ血なの?」


 血の匂いだとすぐにわかり、シュリを見つめると、シュリは機嫌悪そうにジロリとこちらを見た。
 

 「………だったらなんだよ。」
 「怪我してるの?!」
 「俺がそんなヘマするかよ、これだろ。」


 そういうと、テーブルの上に置いてある物を指差した。そちらに目を向けてる、何か大きな物が乗っている。水音は、おそるおそる顔を近づけてみる。


 「これって、お肉?」
 「そうだよ。これ狩る仕事だったんだよ。それで少し分けてもらったから、明日は肉だぞ、喜べ。」
 「うん………。」


 そういうと、シュリはさっさと風呂場に入ってしまう。


 「狩り、か………。」


 シュリが言ったのは、筋が通っており、本当の事だと信じたかった。
 けれど、水音は妙な胸騒ぎを感じてしまっていたのだった。