「おまえ、自分を拐った奴とよく普通に話せるな。」
 「確かにそうなんだけど、この世界で助けてくれたのはシュリだけだから。それに、優しくしてくれてるから。体を暖めてくれたり、食事も出してくれる。そして、昨日は助けてくれたわ。」
 「………向こうがいい奴で、おまえを保護しようとしたかもしれないだろ。」
 「そうかもしれない。けど、まだこの世界の事がわからないから、理解してから決めるわ。」


 この世界が元の世界と違うことはわかった。
 何が正解で、どこが間違っているとか、何もかもわからないのだ。
 そして、目の前の彼の事もわからない。

 口は悪いし、目つきも鋭いし、キスしてきたり、ナイフを突きつけたりもしたけれど、それが彼の全てではないような気がしているのだ。
 今はシュリしか知らない。
 でも、悪い人とは思えない。だから、信じてみたいのだ。


 「お気楽な奴だな。」
 「女の勘です。」
 「………あぁ、そーいえば、おまえ、やっぱり無色なんだな。刻印が見当たらなかった。」
 「………え?」


 刻印というのは、肌に印されているとシュリは言っていた。それがどこに印されているかは決まっていないという。
 水音は体を眺め、自分が昨日まで着ていた服とは違う事に気がついた。
 白の長めのTシャツだった。水音は、背は高い方だったけれど、シュリは180センチはある長身だった。きっと彼の物であろう服は、水音が着るとブカブカだった。


 「胸に着いてた不思議な服と、下の中は見なかったが、刻印があるとしてもはみ出てるだろうからな。」
 「………もしかしなくても、シュリが着替えさせてくれたのよね?」
 「そうに決まってるだろ。濡れた服のままだと、寒いからな。」


 シュリは得意気にニヤリと笑っていたが、水音はフルフルと体を震わせていた。もちろん、寒いわけでも、何か怖いわけでもない。


 「シュリーー!!」


 水音は、裸を見られて恥ずかしさと、あっけらかんとしたシュリの態度に、顔を真っ赤にしながら怒り、シュリを問い詰めようとしたが、彼は逃げ足が早く、水音はシュリを捕まえられず、部屋中を追いかけ回した。


 水音は暁シュリが悪い人ではない、という自分の考えを今すぐにでも訂正したくなっていた。