「私、赤が好きだから、とっても素敵な名前だと思うわ、暁。」
 「………シュリでいい。」
 「じゃあ、シュリ。私の事も水音って呼んでくれていいわ。今さらだけど、昨日は助けてくれてありがとう。とても助かったわ。」
 「………別に。」


 照れてしまったのか、シュリはプイッと横を向いてしまう。その頬が少し染まっていたのをみて、水音は少しだけ微笑んでしまう。

 水音は貰ったスープの器を持ち、一口飲んでみる。が、一口だけで飲むのを止めて、テーブルに戻した。


 「ねぇ……シュリ。このスープ、いつもこんな味なの?」
 「そうだけど。なんだ、不味いのか?」
 「……不味いというか、ただのお湯なんだけど。何の味付け使ってるの?」
 「水と野菜だけ。」


 この世界でも野菜と呼ぶのか、と思いながらも、シュリの料理方法を聞いて驚いてしまう。いや、もしかしたら、この世界ではこんな味付けなのだろうか。しかし、パンは味がついていたし。
 水音は、そんな風に思いながら、シュリにある事を提案してみることにした。


 「あの。この世界の事を知りたいから、今度、食材を買うところに行きたいなーなんて、思ってるんだけど。ダメかな?」
 「………ダメに決まってるだろ。おまえは、終われている身なんだぞ。」
 「そうなんだけど………。」


 さすがに、この味付けでは食べた気がしない。
 それに、シュリももっとおいしいものが食べたいとは思わないのだろうか。
 けれど、今までの食事がこれならば、食べなれているのかもしれない。

 そんな事を思いながら、それ以上は何も言わずにいた。


 「必要なものがあれば言え。俺が買ってくる。」
 「えっ!いいの?」
 「………おまえに、逃げられる方が厄介だ。」
 「ありがとう、シュリ!!」


 元いた世界での調味料の話しをすると、「聞いたことはある。」と言っていたので、こちらでも同じ言葉や食べ物、動物、モノがあるようだった。言葉が通じているし、今のところ彼がわからなかったのは「いただきます。」の挨拶ぐらいなので、ほとんどが同じなのかもしれない。

 だが、互いにないものやあるものもある。
 それが、水音がこの世界に来てわかった事だった。