それを見て、水音は勝手に体が動いていた。
 お母さんもきっと同じ気持ちだったんだろうな、と水音はとても短い時間でそう感じていた。


 その次に感じたのは左肩に激しく燃えるような痛み。目はチカチカして、頭は割れるように痛かった。そして、シュリの怒鳴るように呼ぶ自分の名前と、レイトの驚き、そして泣きそうな顔。

 それを感じながら、水音は草むらに倒れた。

 すぐに、シュリが駆け寄り自分の服を破って、激しく出血している場所を止血する。


 朦朧とした意識の中で、水音は「レイト……レイトは?話をしないと。」とレイトを呼んだ。


 水音を傷つけてしまった自分の手を見つめて動揺するレイトだったが、水音に名前を呼ばれてハッとして、フラフラと水音の近くに寄り座り込んだ。


 「どうして、君はあんなことをしたんだ。あれじゃあ、まるで………。」
 「雪香お母さんみたいだった?」
 「っっ……!」


 過去を思い出し、自分があの時の白騎士と同じようになってしまったと激しく後悔するレイトの手を、水音は血塗れの手で包み込んだ。


 「ねぇ、レイト。もし、あなたが白蓮になったらね、私たち二人は黒になってしまうの。そしたら、あなたは、本当にひとりになってしまうわ。………あなたは、それでいいの?」
 「僕が一人に、なる……。」
 「そうよ………今は、シュリが黒のスラムに行けるけれど、逆は無理よ。……あなたは、一人きりになりたいの。白蓮ので一人で暮らしていて、楽しかった………?」


 優しく問い掛けるようにレイトを見つめると、ハッとした表情になり、そして、レイトは体を震わせた。


 「楽しいわけないじゃないか。嘘をついて、怯えてくらす。誰も信じられない暮らしだ。」


 レイトは、綺麗な青色の瞳から次々に涙を溢して、悲しくそうことばを紡いだ。