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 湖に飛ばされた二人は、キョロキョロと辺りを見渡した。
 水音が湖に近づこうとすると、後ろでシュリが転ぶ音がした。慌てて駆けよると、傷はほとんど癒えていたけれど、体力は戻ってはいないようで、シュリは立つのもやっとの状態だった。


 「シュリっ!大丈夫?……あと少しだけ、湖まで歩ける?」
 「あぁ……。水音、俺を立たせてくれないか。あと、腰にある剣を持たせてくれ。」
 「剣を?…シュリ、何をするつもりなの?」


 水音がそう聞くと、シュリは湖の方をまっすぐに見つめた。その視線を追いかけると、そこに湖の浅瀬に立つ、一人の金髪の男が立っていた。
 白いブラウスに黒色のパンツ。いつもの白騎士の甲冑はつけてはいなかった。


 「レイト……。」


 水音は、小さい震える声でその相手の名前を呼んだ。レイトの手には、大きな剣が握られている。
 そして、その剣を向ける相手は、シュリだった。

 シュリはやっと立てるぐらいの体力だ。
 どう考えても勝てるわけがない。けれど、シュリは震える足で必死に立ち、短剣を構えた。すると、先程までガクガクと震えていた足は、がっしりと地を踏み込んで、いつものように堂々と立つシュリに戻っている。
 これからの戦いのために気力で乗り越えているのだろう。


 「その体で、よく僕の前に立てるね。……裏切り者。」
 「これぐらい普通だろ。黒の騎士さん。」
 「………っっ!そうやってしゃべれるのも今のうちだ。間違って殺されないように、うまく避けるんだよっ。」
 「それはこっちの台詞だっ!」


 レイトが先に地を蹴り、そしてシュリはその動きに合わせて駆け出した。
 水音がみても、彼の走りはいつもよりも断言に遅く、そして繊細さがなかった。目は細く開いており、強く鋭い瞳はどこにもなかった。