『大丈夫だったみたいですね。では、あと2日は、この世界を満喫していきますか?』
 「……やはりもう戻ってこれないのですか?」
 『ええ。2回目はありません。でも、約束を失敗すれば戻ってくることになりますが……。』
 「じゃあ、こっそり夜に散歩してみます。」


 きっと、自分はこの世界に戻ってくる事はないだろうと、水音は感じていた。寂しくないと言ったら嘘になる。生まれ育ったこの街を目に焼き付けておこうと、水音は強く思った。


 シュリを思うと残り2日はとても長く感じた。
 それを少しでも薄れるためにも、水音は今の世界の景色を見て回った。思い出深い場所ではうるうるしてしまうこともあったけれど、やはり水音が帰りたいと思う場所は、シュリの隣だった。それを改めて感じられたことが、水音にとっては大きな気づきなった。








 『思い残す事はないですか?』
 「ええ。」
 

 この世界に来て3日が経った夜。
 ふたりは湖に来ていた。

 優しい雪の問い掛けに、迷うことなく水音が返事をすると、雪は嬉しそうに頷いた。

  
 『では、私に掴まってください。』
 「え………湖に入らなくていいの?」
 『寒いのは身体に良くないですよ。すぐにシュリの元へと向かいましょう。目を瞑って。』

 
 半信半疑のまま雪の腕に掴まり、目を瞑る。すると、ふわりと体が宙に浮く感覚になり、思わず雪にしがみついてしまう。すると、『大丈夫ですよ。そのまま掴まっていてください。』と、雪は安心させるように声を掛けてくれる。

 すると、すぐに浮遊感がなくなりどこかの地面に足がついた。
 ゆっくりと目を開けると、そこは薄暗い洞窟のようなところだった。見たこともない場所な、戸惑ってしまうと、雪は悲しそうな顔を見せながらここがどこなのかを教えてくれた。


 『ここは、エニシの家の地下です。この先には、牢屋があります。』
 「……まさかっ!!」


 水音はその意味を理解し、そして嫌な予感を感じて地下に向かって走った。
 ところどころに火の貴石が置いてあったし、地下への道は一直線だったので、迷わずに地下の牢屋へと向かうことが出来た。

 一番下の牢屋では、水音が会いたかった人が哀れな姿でそこにいた。


 「シュリっっ!!」

 
 シュリは、天井から吊るされた鎖で両手を拘束されていた。腕で吊るされた状態であり、そして、体には、あの時にレイトに刺された傷口が治療もされないまま残ってた。
 床には沢山の血が落ちている。すべて、シュリのものだとおもうと、水音は気がおかしくなりそうだった。