プロローグ





 鳳水音は、小さな湖を見つめていた。

 そして、水辺に立ったままで、左手を丸め右手でそれを包むように手を合わせて、祈る。

 何を願うのか。
 それは水音にはよくわかっていなかった。


 昔、母親がそれをやっていたのを覚えていたから。そして、母は「ここには違う世界があるの。その世界が幸せになりますように、と願っているのよ。」と、水音に教えてくれた。


 幼い頃も、そして今になっても、その意味はわからない。

 けれども、水音は仕事の前にここに立ち寄り、祈りを捧げる。


 どこの誰に届くかわからない。湖の底にある、世界の人々に。