「ライブでギター弾いてた……」
違う。間違ってはいないけれど、これじゃない。もっともっと深いとこにある記憶まで駆けていく何かがもっと奥から引っ張り出してきた記憶が、私の目に熱を持たせた。
一人の男性が近づいてくるなり私にタオルをかけながらしゃがみこんで問いかけた"歩ける?"
"大丈夫。絶対なにもしないから安心して"
"ごめんな"
誰かが使うドライヤーの音がうるさい。
"家まで送ろうか?"
"大丈夫?"
運転席の窓を開けた男性が"ごめんな"と言った。
どこかにずっとずっとあった"大丈夫?"と"ごめんな"の声がどんどん鮮明になってあの日を私に見せつけてきたりするから、私は沢山の感情に巻かれながら声を出した。
「あの時の……お兄さん…?」
見てなかった。だから覚えてなんていないはずの大学生の姿が鮮明になっていく記憶の中に、確かにそこに見えた。
「うん…」
その声は小さいながらも静かすぎる部屋には十分に響いて私の耳にも届いた。
