立ち止まったままの私と花瀬先輩を避けて通り過ぎて行く少し疲れた顔をした人、酔っているのかいないのかハイテンションな人、部活帰りなのかジャージ姿の人、お洒落した可愛い子や恋人と手を繋ぎながら歩く男女の姿を目に焼きつける暇も与えないこの空気を出している花瀬先輩の目を私は逸らすことなく見つめていた。



「白神さん…好きだ」


言葉はどこにも立ち寄ることなく真っ直ぐにこの空気をすり抜けて私の耳に入り込んだ。


好きだ。好きだ。
好きだ。好きだ。好きだ。
好きだ。好きだ。好きだ。好きだ。


その瞬間に頭の中は先輩の声で録音された好きだ。で埋め尽くされ、私は初めての事に戸惑い、気がつくと静かに歩き出していた。


「し、白神さん?ちょ、待って」

「ひ、人が…いっぱいですよ」

「あ、ごめん。でも伝えたくて」

「ひ、人が…いっぱい…」

「それでも俺は白神さんしか見えてないから」

「それ危険すぎます…」

「恋とはそういうものだ」



その時、微かに胸が温かくなった事を私は歩いているからだと思った。