「おー莉奈」
帰ろうと玄関まで来たとき、ちょうど前の廊下から歩いてきた凌太とばったり遭遇した。
気怠そうな声で私を呼び止める。
「あれ?こんな時間まで残ってるなんて珍しいじゃん。何してたの?」
「先生に怒られてたってとこ」
真面目に学校に来てると思いきや、大きなあくびをしながらそう言う彼。
「怒られてた?さてはまたなんかやらかしたんでしょ?この不真面目野郎め」
「違うし。ちょっと髪の毛茶色いからってゴタゴタ言ってきたんだよ。あいつまじで無理だわ」
何かと思えば原因はこれだ。
結局悪いのは凌太にある。
「あんたが染めたのが悪いんでしょ?私ちゃんと黒染めしてこいって言ったじゃん」
「これ以上黒くできねーよ」
凌太は自分の髪の毛を少し掴んで私に見せてくる。
私はつくづく凌太に呆れ、ついため息が漏れる。
「あ!やべ」
突然、凌太は何か嫌なものを見たように、逃げるように玄関の柱へ隠れた。
凌太の目線の先をみると、藤宮先生が通ってきた。
そして藤宮先生は私達に気づかず、そのまま去っていく。
「…行った?」
凌太は小声で私にそう言う。
「藤宮先生なら気づかずに行っちゃったけど、何で隠れたの?」
「あいつだよ、俺に何かしら絡んでくるし、担任でも生徒指導でもねーのにわざわざ俺のこと怒ってくんの」
「そうなんだ…」
藤宮先生が凌太のことをそれなりに気にかけていることを知った。
「とにかく、怒られるのが嫌だったらちゃんと真面目にしててね!いい?わかった?」
「はいはいわかったよ、だからお前まであいつみたいに言うなって」
本当に分かってるのか不安だけど、生活習慣を直すのは本人の意志。
だから間違っていることをしっかり注意してあげるのが私の役目だ。