6月。梅雨時期になり、少し汗をかく季節になった。
ジメジメしているせいで服が体に密着し、ベタつくことも多い。
そして私の高校ではもうすぐ体育大会が行われる。
入学して初めての行事は体育大会。
運動はあまり得意ではないが、案外嫌でもない。
「それでは、体育大会の種目決めをします」
クラスの体育委員が教卓の前に立ち、中心に話を進める。
「今から順番に種目を黒板に書くのでやりたい人は手を挙げて言ってください」
そして黒板には徐々に種目が書かれていく。
種目は、二人三脚、台風の目、百足リレー、障害物競走、団対抗リレーなどがある。
リレーはプレッシャーがかかるため避ける。
出るとすれば、百足リレーか台風の目。
個人で走るのではなく、なるべく大人数で協力し合う方が好きなのだ。
考えているうちに、みんなが手を挙げてどんどん種目が決まっていく。
「里島さんは何するんですか?」
すると、藤宮先生が私に近づいてきてそう言ってきた。
「まだ考えてますけど…」
「早く手を挙げないとやりたい種目なくなりますよ?ほら」
「知ってますからもう言わないで下さい」
私が怒っているのを見て先生は少し鼻で笑っていた。
馬鹿にするのも大概にできないものか。
「では続いて団対抗リレーに出たい人?」
"団対抗"という言葉を聞いて誰も手は挙げなかった。
リレーは度胸がいるものだからな。
「リレーなんて絶対嫌だよ」
「無理無理」
ぼちぼちそんな声も聞こえてくる。
「はーい」
私の横にいた藤宮先生がなぜか手を挙げた。
「えっと…藤宮先生、なんで手挙げてるんですか?」
「あの、団対抗リレー推薦します。里島さんを」
「え!?」
先生から予想もしない言葉が飛び出した。
その言葉でみんなの視線は一気に私に集まる。
「莉奈、本気なの?」
風夏も驚いて私にそう言う。
「い、いや、そんなわけ…」
突然何を言い出すんだこの人は。
冗談もいい加減にして欲しい。
とうとう怒りが頂点に達しそうになる。
「先生、里島さんの推薦理由は…?」
委員長が先生にそう聞くと、また信じられないことを言い出した。
「彼女はリレーに向いていると思います。フォームも綺麗だし、今から頑張って努力すれば絶対本番でいい結果が出るはずだからです」
先生は冷静にそう言った。
努力すればいい結果が出る?そんなの私に限ったことじゃない。
「待って!私はやりたい競技が…「ということでやりますよね?里島さん」
私の言葉を最後まで聞かないで、先生はリレーの出場を強制してくる。
「先生が推薦するなら…それじゃあ、団対抗リレーは里島さんってことで決定します!頑張って!」
これ以上議論を続けても誰もリレーに手を挙げないことを見越したのか、委員長も先生の意見に賛同して拍手を送る。
「莉奈ファイト!応援してるよ!」
「頑張れ〜!」
否定する間もなく、1番プレッシャーがかかるリレーの選手に決定してしまった。
嘘……
先生とみんなの圧に押されてしまった。
もう取り消すことはできない。
走るの苦手なのに、緊張するのに!
なんで私を…?
そんなことばかりが頭をよぎる。
私は先生を睨んだ。
隣で拍手をする先生の顔は、どう考えても悪意があるようにしか見えない。