秘密。

plllllll…

大志のシャワーを待っている間に携帯が鳴った。
母だ。

「もしもし?」

『紬今どこにおんの?今すぐ帰って来なさい!』
電話を繋ぐなり、母の怒声が聞こえた。しかし、いつもと様子が違う。
「今友達と静岡来とるんやけど…」
『そんなん言うとらんと…じいちゃんが…じいちゃんが危ないの…』
母は泣いていた。
母方の祖父が倒れたらしい。
半年程前から、肺癌で入退院を繰り返していた祖父。
思っていたよりも容体が良くなく、夕方倒れて救急搬送されたのだ。
わたしは昔からおじいちゃん子だった。
祖父も朦朧とする意識の中でわたしの名前を何度も呼んでいるという。
3人兄妹の末っ子の母。上の兄2人は未だに独り身。一人っ子のわたしは、祖父にとってたった1人の孫娘だ。
幼い頃からたくさんの愛情を注いでもらった。わがままをたくさん聞いてもらった。強くて優しくて、お酒が大好きな祖父。
そんな祖父が弱っていく姿を見るのが辛くてろくに顔を見せに行っていなかった。

『じいちゃん、苦しそうやけど紬の名前呼んで待っとるよ…会いに来てあげて…』
祖父には会いたい。でも、怖い。それに…個人的な事情で大志を振り回すことを避けたい。
「明日早めには帰るからそれからでもいい?帰ったらすぐ行くから…」
『そうね…今からじゃ危ないし、急なこと言ってごめんね。明日、気をつけて帰っておいで』
母は少し冷静さを取り戻したように静かに電話を切った。