秘密。

「1時間待ちかあ、さすがだな」

やってきたのは静岡で有名なハンバーグチェーン店。
日曜日のご飯時だったので余計に混んでいる。

「待ってる間、ゲーセンでも行くか!」
すぐ近くにゲームセンターがあるのを車を降りた時に確認していた。混んでたらゲーセンで時間潰せるね、なんて冗談半分に言ったことがまさか現実になるほど混んでいるなんて予想外だった。

もともとゲームをしないわたしは何をしても大志には敵わなかった。対戦ゲームでも、UFOキャッチャーでも、思い通りに行かない。それでも大志と一緒だというだけで楽しめたし、1時間の待ち時間はあっという間に感じた。

ある程度時間を潰して店に戻ると、ちょうど呼ばれた。好き嫌いの多いわたしはハンバーグをあまり好んで食べない。あれば食べるが外食をしてわざわざハンバーグを頼むなんてことはしたことがない。
けれど、この日のハンバーグは美味しかった。
さすが人気店、というのもあるだろうが、好きな人が美味しそうに食べているのを見ながらの食事がこんなに楽しくて美味しくて幸せなことをわたしは初めて知った気がする。

ハンバーグ店を後に、近くのホテルへ向かった。
ここはいつも通りお酒とつまみを買って行った。

「えっ…まじ?」
いつも通り、のはずだったのに、部屋に入った途端目を疑った。
急な旅行だったのできちんとしたホテルではなくいつも通りのラブホテル。
ただ静岡はお互いに土地勘がないのでハンバーグ店から一番近いところを選んだ。のが間違いだった。
「入ってる間、目瞑っとればいいんかな」
部屋と浴室の仕切りが、ガラス張りだった。
「さすがにこれはやべーな」
大志も少し苦笑い。
今まではなるべく普通っぽいホテルを選んできたので、ここまであからさまなラブホテルは初めて。
よく見ると照明もムードランプになっている。

「あ、でもこれカーテン降りるじゃん」
浴室は内側から降ろすタイプのカーテンがあったので目隠しは出来たが、微妙に隙間が空いてしまう。
大志がすぐ側にいる、下手すれば見えてしまうかもしれない状況でシャワーを浴びるなんて、今にも心臓が飛び出そうだった。

「俺絶対見ないから、紬、先入っといで」
「あ、ありがと…わかった」
大志も意識しているのかな、どこかぎこちないやり取り。
シャワーを浴びている最中も、カーテンの隙間から大志の姿が見えた。
ずっと浴室と反対側を向いているが、いつ振り返るのかとそわそわして気が気ではなかった。

入れ替わりで大志がシャワーを浴び、ここからはいつも通りの晩酌。
1日を振り返っての話も沢山した。
ウイスキーの瓶が空になったところで、ベッドに移動。
今日はいつもとは違い、ムードランプが付いている。しかも、2人きりで旅行に来ている。
何かあってもおかしくないし、わたしはどこかでそれを望んでいた。

大志のものになりたい。大志と結ばれたい。
年の差はあるけれど、2人で旅行に、来ているのだから…