月は紅、空は紫

 清空は、自分に向かって叫んだ彦一たちを無視して小夏の元に歩み寄った。
 一刻も許さぬ、問答などしている場合では無いということは清空にも分かっていたからである。

 予想外な行動を取った清空に、不意をつかれて呆気に取られる一同を尻目に、清空は戸板の上に寝かされる小夏の身体に手をかざした。
 頭部から首、胸の上をまるで撫でるように――小夏の身体を自分の掌でかざしていく。

 そんな行動を取る清空を、その場に居る誰も制止できなかった。
 清空の様子が、制止できぬほどに『気』に満ちたものであり、文字通りそれに『気圧された』のである。

 一同が見守る中、清空は両手を腰の辺りにかざしてから、その手を臍下三寸の位置……知る者が見れば、そこは『丹田』と呼ばれる『気』の通り道であることが分かったであろう――そこに手をかざし、両の掌に気合いを込めた。

「――――破ッ!!」

 清空の様子を見守る為に、停滞することを余儀なくされていたその場の空気が――清空の気合いの掛け声によって静寂が破れた。

「き、貴様! 小夏に何をした!!」

 呪縛が解けたように、身動きを取り戻し、突然に清空へと食ってかかったのは、清空から見て左側に立っていた彦一であった――。