月は紅、空は紫

 彦一たちは大急ぎで小夏をを戸板に乗せなおし、診療所までの道を再び駆け出そうと体勢を整えた。
 ここに至って、ようやく清空も尻餅を着いた体勢から立ち上がり、自分とぶつかった一団がどのような状況であるか、ということをその目で視認した。

(手伝えるようなこともなし――)

 そう思い、狭い路地でもすれ違いが出来るように、もう一度井戸がある場所まで引き返そうとした時……戸板に乗せられた少女の姿が目に入った。

 高熱を出して、今にも彼岸の淵へと連れて行かれてしまいそうな小夏。
 その少女に――清空は目の端で『違和感』を感じた。
 少女のただならぬ様子に、それがただの急病などではない――そう感じたのである。

(さて、どうしたものか?――)

 清空がそう思案する間にも、一団は長屋から抜けようと走り始めようとしていた。
 彦一を先頭にして、「せーの」という掛け声と共に一団が走り出そうとした――その時である。

「もし……よろしいですか?」

 悩む間は無い、そう考えた清空が、病人を抱えた一団に話し掛けたのだ。