月は紅、空は紫

 小夏は、いかに清空に素っ気なくされようとも清空の傍を離れようとはしない。
 それは、清空が自分のことを思い遣ってくれているのだ、という事を薄々知っているということもあるし――それ以上の理由もある。
 せっかく清空と一緒に居れるのだ、多少の不満な事には目を瞑ってでも少しでも長い時間を清空と過ごしたい……そんな、幼いながらも持っている乙女心によるものが大きい。

 そう、小夏は――この少女は、清空に憧れに近い恋心を抱いていた。

 小夏の家は、京でも有数の呉服屋ではあるが、兄弟には跡継ぎとなる弟が居るし、姉も居る。
 相手の感情はともかくとして、小夏を取り巻く恋愛事情はかなり自由があるものといえる。
 つまり、清空さえその気になってくれれば、小夏の恋愛だって成就する可能性はあるのだが――清空は小夏のことを『可愛い妹』くらいの目でしか見てくれていない。

 小夏にしたところで、清空のそんな様子が理解できるからこそ必要以上に清空に付き纏い、自分の存在をアピールしている部分もある。
 だが、仮に清空が小夏を女性として意識するようになるとしても――あと五、六年の時間は必要になるであろう話で、現在の小夏の努力は……残念ながら徒労に終わっていると言っても仕方の無いところである。