月は紅、空は紫

「清さん!!」

 来た時よりは幾分か少なくなった野次馬を掻き分けた清空を、甲高い声が呼び止めた。
 声のした方向を見ると――人だかりの端で小夏が頬を膨らませながら座っていた。

「あーあ、見たかったなあ」

 清空が仕事を終えて、そのまま長屋に戻ろうとしていることを知ると、小夏は清空の横に並ぶようにピッタリとくっついて来た。
 清空をダシにして、自分も殺人事件の現場というものを見ようという企みだったのに――野次馬に遮られてしまい、結局は現場を見ることも適わずに清空が野次馬の群れから出てくるのを輪の外で待つハメになってしまったようである。
 隣に歩く清空に、どのような事件が起こったのかをしきりに聞いてくる。

 しかし、清空はそんな小夏に「知るようなことではないよ――」と素っ気なく返すばかりである。

――興味本位で首を突っ込むような事ではない。

 少女の心の平安というものを願う、清空なりの優しさであった。
 だが、そんな清空の気持ちを露知らず、小夏は清空の返事に再び頬を大きく膨らませて不満の感情を示すのだった。