月は紅、空は紫

「歳平よ、お前ならばどう見る?」

 遺体の検分を進める清空に、中村が意見を求めるように尋ねた。
 中村の心の内には、一つの考えも浮かんでいるのだが――まずは、この若者の意見も聞いてみたい、という心境からである。

 清空は遺体に傷口に近付けていた顔を上げて、中村の問いに答える。

「そうですね……月並みではありますが、剣の達人――それも、よほどの名刀ではないとこれ程までに鮮やかな斬り口にはならない……かと」

 清空の答えを聞いて、中村は「ううむ……」と短い唸り声を口から漏らした。
 中村が考えていた下手人の想像図と、清空の出す犯人図が一致してしまったからである。

 中村は、清空のその生活態度から、この若者のことを余り好いてはいない。
 しかし、清空の医者としての腕前と、時に自分以上に的確に切れる頭脳には――全幅の信頼を寄せていたのである。

 その清空が述べる犯人像――恐らくは広い京の中でも、該当するような条件を持っている人物はそう多くは無いだろう。
 中村が調べるべきは決められてしまったようなものだった。