月は紅、空は紫

 ムシロを捲り、清空は目を背けたくなった。
 それほどまでに――酷い死体であったのだ。

 まず、片足が無い。何か鋭利な刃物のようなもので切ったように、右の膝から下がスッポリと無くなってしまっている。
 他にも、身体中に無数の切り傷があり、脚以外で特に深いのは首に残された傷である。
 どれが致命傷になったのかは分からないが、この遺体が川に落ちるより先に死亡してしまったという事は火を見るより明らかであった。

「それにしても……損傷が酷いですね」

 遺体に残る傷の一つを撫でながら、清空が中村に話しかけた。
 清空が遺体を検分する様を見ていた中村が、渋い顔をしながら清空の独り言ともつかぬ言葉に答えた。

「うむ……溺死体と同じような状態だからな――」

 遺体は水によって膨れてしまい、死体には沢蟹が群がっている。
 それが猶の事、遺体の検分を難しくしてしまっていた。

「しかし、この切り傷――殺されたのは間違いないですね」

 水でふやけた部分はあるものの、白く変色してしまった切り口だけがこの遺体は殺されたものである、ということを示している。
 この点には、中村も概ね同意していた。