月は紅、空は紫

「おう、遅かったな――」

 野次馬を掻き分け清空が現場まで辿り着くと、しかめっ面の中村が遺体の横で腕を組みながら立っていた。
 現場は、中村と遺体が置かれている場所を中心として、ロープなどを張っているわけでも無いのに三間ほどの空間が出来上がっている。
 ただ、その三間を超えると芋を洗うが如くの野次馬の群れが存在しており、清空はどうにかその人だかりを潜り抜けて来たのだが、小夏は未だに人だかりを抜ける事が適わずに埋もれてしまっているようである。

 清空は、「どうも」と会釈をしながら中村に近付き、伏されている遺体の傍まで来ると、手早く中村に向かって本題を切り出した。

「――で、殺しのようで……?」

 清空のその言葉に、中村のしかめっ面を構成している切れ長の眼が一層鋭くなる。
 ただ、清空の質問に対してすぐに言葉で返すというわけでもなく、顎で遺体の方向を差し、清空に遺体に掛けられているムシロを捲ってみるように動作で促した。

 中村の指示に従い、清空は手を合わせて拝むような格好を見せてから遺体に掛けられたムシロに手を掛けた。