「歳平様にお願いしたい事はただ一つ――メジロを止めて頂きたいのです。もはや私の力では止めることは叶いません。メジロを……弟を殺してください」

 『殺す』という言葉に、清空は穏やかならぬ空気を感じた。
 いかに止められないとはいえ、自分の仲間を殺すというのは短絡的では無いか。
 イシヅキが来るより前に――メジロを斃そうとしていた清空が考えるような事ではないが、それにしても、何故イシヅキがそのような結論に至ったのか、清空は非常に気になったのだ。

「殺すとまでは……何故それほどに? 止める手立てを探せば良いのでは?」

 清空にしてみれば、メジロを止める手段があれば、いかに人に害を成した妖であろうとも殺してしまおうとまでは思っていない。
 紅い月によって心を狂わせた――それだけで無いというのならば、元に戻す方法があるというならそれを実行した方が良い。
 清空とて、使命があるから妖と戦う。無闇に妖を滅ぼしたいわけではないのだ。

 清空の言葉に、イシヅキは苦渋に満ちた表情で答える。

「そういう訳にもまいりません。メジロは……あやつは人を殺めました。我々の掟では『人を殺めた鎌鼬は滅びるべし』と決まっております。昔に住んでいた遠野では我々は人を傷付ける悪神として恐れられておりました。しかし、それも我々の脅威を人間が忘れぬようにするためだけのもの――殺める事は我々の本意ではありません。流れる噂によって、私の耳にも届きました。弟が――メジロが人を殺めてしまった、と。そして、桂川で貴方と戦っている場面もこの眼でしかと確認しました――かくなる上は、あやつを殺めるしかないのです」

 イシヅキの押し殺したような声と裏腹に、その表情は怒りとも悔しさとも、はたまた哀しみともつかぬような複雑なものが浮かぶ。
 清空は、イシヅキに向ける言葉が――それ以上は見付けることが出来なかった。