月は紅、空は紫

 清空の眼前に居る鎌鼬は一匹である。
 鎌鼬は三身一体――つまり、あと二匹が存在している。
 緊張と共に、疑問が清空の心の内を駆け巡る。

 その疑問の一つが『清空は転ばされていない』ことである。
 鎌鼬の性質上、絶対に転ばせてから相手を斬り付けるのだ。
 なのに、清空は先ほどいきなり斬り付けられた。
 そして、もう一つ――清空の傷が塞がっていないことである。

 必ず三身一体で行動するはずの鎌鼬が――なぜか一匹しか居ない。
 清空が眼前の鎌鼬に集中しつつも、疑念に頭を巡らせていると――眼前の鎌鼬から声が漏れた。

「ギ……ニ……オ……イ」

 そう言って、鎌鼬の睨み付ける視線はさらに強いものになる。
 その声は、何とか清空にも聞き取ることが出来た。

(――ニオイ……『臭い』!?)

 鎌鼬の呻き声の意味が清空には分からない。
 この鎌鼬の行動に、清空に襲いかかった行動に――臭いが関係あるのだろうか?
 確かに、清空は妖と闘う術を学ぶために陰陽師としての訓練を受けている。
 それ故に、常人では判別できないが、清空は通常の人間よりは強い気を纏っている。
 その『気』に反応して襲い掛かってきた――ということだろうか?と清空は思案を巡らせた。