月は紅、空は紫

　鎌鼬とは、古来の言葉『構え太刀』が訛ったものだとされる。

　自然現象として起こった、空気中に出来た真空によって皮膚などを切り裂かれたものを、太刀を構えたイタズラ者のイタチに斬られたと考える伝承より起こった言葉なのだろう。

　転じて、伝えられる妖怪である鎌鼬の姿は大きな鎌を抱えた鼬の姿で描かれることは多い。
　しかし、実在する鎌鼬と伝承の姿に大きな相違は存在せず、人の想いがこの妖に姿を与えたのか、それとも自然を神と敬う信心があった当時の人間だからこそ姿の見えぬ妖の姿をほぼ正確に捉えて描き出したのか、それは分からない。

　元々は信越地方に伝わる伝承である。
　寒風の吹く折などに、転んで足に切り傷のような傷を受けるものをこの怪とする。
　『暦を踏むと鎌鼬に襲われる』などの言い伝えも存在する。

　この悪神は、常に三匹で行動し、先頭の者が人を転ばせ、真ん中の者が人を斬り付ける。そして、最後の者が薬を付けて出血を止めるという風に語られる。
　清空は、紛れもなく『斬り付けられた』わけであり、目の前でうめき声を上げるのは真ん中の鎌鼬であることが推察された。

（一体――？）

　目の前にいる鎌鼬と対峙しながらも、清空の頭の中には新たな疑問が湧き出す。