道元の話を聞いた後、清空は二条から桂川のほとりへ移動し歩いていた。
 人のすることをとやかく言うつもりは無い。
 ましてや、これまで世話になり尊敬もしている人物のすることである――清空にも思うことはあったのだが、結局は何も言うことなく道元の店を後にした。

 これまで、あの老夫婦の家族については話を聞いたことは無かった。
 年齢が年齢でもあることだし、顔を見たり話をしたことは無くても『子供も居るのだろう』と勝手に思い込んでいた。
 しかし、改めて子供が居ないと聞いてみると――これまで自分のことをまるで実の子供のように接してくれた老夫婦の気持ちが少し見える。
 そして、これまでの事があるからこそ――清空はあの老夫婦がしようとしていることを聞かされても、何の反対も出来ないでいた。

 清空の手には、薬屋で受け取った薬の風呂敷が握られたままである。
 尊敬する人間のやろうとしていることは、間違いではないだろうかという思いと――それを止める術を持たない自分との間で葛藤していて、自分の診療所にさえ戻れないようないたたまれない気持ちになっていた。

 清空自身、結婚して子供が居てもおかしくない年齢ではある。
 しかし、まだ子供も持ったことも無い清空には――望んでも子供を授からなかった老夫婦の気持ちはどうしても推し量ることが出来ない。

 このまま、何も言わずにあの老夫婦がしようとしていることを見逃すのが、清空にとっても一番良いことなのか?
 清空の中で、言い様の無い感情が渦巻いていた。