やこと暮らすようになって半月、道元とその妻である染乃は迷うようになっていた。
 その迷いとは――『やこを自分たちの娘に出来ないか』ということである。

 たったの半月ではあるが、やこは良い娘だった。
 薬屋をよく手伝うし、最初の二、三日こそ緊張のために警戒していたのか口数少なかったのだが、ほどなくして慣れてくるとよく笑う。
 その笑顔は、子供を望んだがついに授かることのなかった道元夫妻の心をこの上なく和ませた。

 しかし、やこは記憶を無くしているとはいえ――きっと道元たちも知らぬ別の人生を持っているはずである。
 家族も居るだろうし、ひょっとすると妙齢でもあることだし夫も居るかもしれない。
 今はこうやって、道元の店を手伝ってくれているが、記憶を取り戻せば元の生活に帰って行くことであろう。

 だからこそ――道元たちは『やこの記憶が戻らねば良い』と思うようになっていた。
 周囲の人間に、『やこは自分たちの孫で』と吹聴し、やこには記憶を取り戻してしまわぬようにあまり外出させないようにしていた。

 清空にこれだけの事を話して、道元は深いため息を吐き出した。
 他の人と同様に、清空にも隠してしまえば良かったのだが――親しく付き合っている清空を前に嘘を吐けなかったのだ。

 清空は、ただ無言で道元の話を聞いていた。