私をイジメるお姉様。
 ねぇ、あなたが居るから私は誰からも愛されないの。
 私はこれだけ苦しんだのだからあなたが苦しむのは当然よね。

 ミハエル様から預かった薬をお姉様の飲むお茶の中に入れた。
 でもそれだけだと私が疑われるかもしれないからというメイドの意見を聞いて私の紅茶にも入れた。
 勿論、私は自分の紅茶を飲まなかった。
 何も知らないお姉様は私が持って来た紅茶を疑いもなく飲む。


 だって、お姉様が悪いのよ。
 私の苦しみに気づかないお姉様が。
 だからね、私思ったの。
 ちょっとくらい、お姉様に悪戯してもいいんじゃないかって。

 目の前で倒れていくお姉様を見て。思わず歪みそうになった顔を何とか堪えた。
 直ぐにお医者様が呼ばれた。
 私は別室に居た。

 「セシル様のお茶に毒が入っていました」
 そう、お父様の執事のヴァンが言った。
 「毒?そんな、どうして」
 「ご存じなかったのですか?」
 「知るわけないじゃないっ!どうして私がお姉様を?」
 「あなたの部屋から毒が見つかりました」
 「そんなの知らないわっ!お茶だって、メイドが淹れたものを持って来ただけよ。
 もしかして、メイドが?メイドが犯人なの?でも、どうして?」

 メイドには悪いけど、毒を入れた犯人になってもらおう。
 別に使用人が1人ぐらいいなくなっても誰も困らない。
 でも私は貴族だから、特別だから大切にされなくちゃいけない。
 私の為に犯人になったくれるぐらい、いいよね。
 だってあなたは私のメイドなんだから。
 ジークだってお姉様の為なら命すら惜しくないって感じだし、使用人ならそれぐらい当たり前だよね。

 「ねぇ、私のお茶からは何も出て来なかったの?
 お姉様が狙われたってことは私の狙われていた可能性もあるのよね」
 「毒は入っていました。不思議なことに」
 「ええ、そうね。不思議だわ。お姉様なら入っていても当然だけど、私が命を狙われることなんてないもの」
 「それはどういう意味ですか、グロリア様」
 「よさないか、ジーク」
 前に出ようとしたジークを慌ててヴァンが押しとどめた。

 「だってそうじゃない。顔だけで性格が最悪なお姉様は他の令嬢方からあまり評判が良くないと聞くわ」
 それはセシルの容姿に嫉妬した一部の令嬢だ。
 「あなたはっ」
 「ジークっ!」
 ヴァンに怒鳴られ、ジークは何とか思いとどまったが噛み締めた唇からは血が滲んでいた。

 「私もあなたの命が狙われるとは思っていません。
 けれどそれは性格の問題ではなく価値の問題だと考えています」
 「どういう意味?」
 「様々な事業をし、ラインネット家に多大な貢献をしているセシル様と片や何もできないグロリア様。
 あなたを殺したところでラインネット家が受けるダメージはゼロです」
 「なっ!使用人風情が私にそんな口をきいて良いと思っているの?」
 「敬うべき主人はあなたではない。それでは失礼します」

 そう言ってヴァンはジークを連れて出て行った。


 何よ、何よ。
 バレるはずがないんだから。
 だって、お父様が娘の私を疑うはずがない。
 お姉様と違って私はお父様にも愛されているのだから。


 どこかの場面で自分はお父様にも愛されない可哀想な娘だと嘆いていたが自分の都合の良いようにしか考えられないグロリアはその矛盾に気づくことはない。いや、自分が愛されないと嘆いていたことすら忘れているのだ。