「ねぇ、イサック」
 「何、オルフェン」

 面倒な夜会が終わった後、客人も帰りイサックとオルフェンも自室に戻る為に回廊を歩いていた。

 「君はもしかしてセシルのことが好きなのか?」
 「ああ」
 恥ずかしげもなくイサックは言った。
 「頭は良いし、美人だし、優しいし、それに今日の夜会での彼女見た?
 俺が王子だと分かって挨拶に来た時『面倒が来たな』って隠しもしなかった。
 俺を連れて来たお前を睨みつけてもいたな。
 普通は王子である俺を知らずとはいえ仲良くなっていたんだ。
 誰よりも頭一つ分飛びぬけていると思って更に仲を進展させようと考えるものじゃないのか」
 「彼女は自分でかなりの額稼いでいるし、権力に阿るようなタイプではないよ」
 「そうだろうな。うん!ますます好きになった」

 セシルは面倒な人に好かれたなとオルフェンは思った。

 「オルフェン、俺は友人だからって君に遠慮することはしないよ」

 挑戦的にイサックはオルフェンを見る。
 そんなイサックにオルフェンは苦笑した。
 お互い立場のある人間だ。
 そして伯爵令嬢であるセシルは王族と婚姻を結ぶこともできる。
 そのせいか仲の良いセシルとオルフェンを恋人なのでは?と邪推する人も居る。

 「悪いけど、俺とセシルはそんな仲ではないよ」

 俺がそう言うと大概の人間は驚くのだがイサックは何かを考えるそぶりを見せた。
 一体何だというのだろう?

 「何に遠慮しているのかは知らないけど、本気なら本気でぶつからないと何も始まらないぞ」

 そう言ってイサックはさっさと自分に与えられた客間に入って行った。
 一人取り残されたオルフェンは月明りに照らされた回廊を見つめた。

 「・・・・・遠慮、か」

 イサックがセシルを好きなのは本当だろう。
 そして宣言通り彼は遠慮をしないだろう。
 利益を生むセシルを伯爵がそう簡単に手放すとは思わない。
 王だって国に利益をもたらしてくれる令嬢を簡単に他国へ嫁がせたりはしないだろう。
 寧ろ自分の息子の嫁にどうかと何度も打診をしていると聞く。
 伯爵はのらりくらりと躱しているようだが。
 婚約破棄になってからセシルに群がる虫は多くなった。
 誰の目から見てもセシルは金の生る木なのだろう。
 だから彼女は誰にも靡かない。

 でも、イサックは違う。
 彼女だけを見ている。
 利益とかは彼女との婚約話を有意義にさせる為の駒と考えるだろう。
 そんな相手にもしセシルが惚れたら、伯爵も最終的には頷くだろう。
 なんだかんだ言って娘に甘いのだ。

 もし、そうなったら・・・・・。

 「もし、そうなったらお前はどうする、ジーク」