邸の中でカーネル先生の怒号が響き渡る。
 そんな中でセシルはルルに淹れてもらった紅茶を優雅に飲んでいた。
 セシルの傍にはジークも控えていた。

 「賑やかですね。お嬢様」
 「そうね。なかなかいい先生を見つけて来たわね。お父様」

 カーネル先生が来てから逃げるグロリアをカーネル先生が怒号を上げながら追う姿はここラインネット家では当たり前の光景となっていた。
 本来、邸の令嬢を先生が追うなんて光景は眉を顰める行為なのかもしれないが邸の人間は見て見ぬフリをしている。
 これでグロリアの性格が改善されたらとみんなが思っているのだ。

 「ところでお嬢様」
 「何、ジーク」
 「クリス様がグロリア様のお部屋にいるはずなのですが、今はどうしているのでしょう?」
 「部屋の主であるグロリアが出て行ってその後を先生が追いかけていったわね」
 「つまり、グロリア様のお部屋で1人取り残されている状態ですね」
 「そうね。ルル、クリス様を呼んでくださる」
 「畏まりました」

 暫くしてルルに連れられてクリス様が来た。

 カーネル先生の怒号はまだ続いていた。

 「この邸も賑やかになりましたね」
 「そうね。ところでグロリアの教育を見たご感想は?」
 「取り敢えず足が痛い」
 「?」
 「いや、ちょっとダンスの相手をさせられて」
 「それは災難でしたね」

 ルルはクリス様の分の紅茶を淹れてテーブルに置く。

 「ありがとう、ルル」
 「いいえ」

 クリス様は私の対面に座り、紅茶の匂いを堪能してから口を付けた。
 茶葉を扱った仕事をしているだけあって彼は紅茶が大好きなのだ。

 「今日見ただけじゃあ、あまり分からないんですけどグロリア嬢の成果はどうなんですか?」
 「成果?そうねぇ」

 セシルは手にしていたカップを置き、グロリアの様子を思い浮かべる。

 「取り敢えず、時間はかかるけどノックをすれば返事がありますわね。
 ダンスは前は最低でも6回は足を踏んでいたのだけれど今では最低2回かしらね。
 声も前よりかは聞き取りやすくなったわ」

 成程、取り敢えず成長はしているようだ。

 「それは何よりです」
 「あなたに渡す前には人前に出れるぐらいにはしてもらいますわ」
 「そうしてもらえると有難いです、非常に。
 さすがに社交ができないのは致命的なので」
 「ええ、分かっていますわ」
 「よろしくお願いします」
 「はい」

 未婚の女性の部屋に長いこと殿方が留まるのはあまりよろしくはないのでクリス様は紅茶を1杯だけ飲んではラインネット家を後にした。
 その際にもカーネル先生の怒号は聞こえる。

 「本当に賑やかになったものね」

 私はカーネル先生の怒号を聞きながら仕事に戻った。