「それで、どうするグロリア?」

 無事にお茶会を終えたグロリアは父の執務室に呼ばれていた。
 婚約者候補を絞らなければいけないのだ。
 だが、グロリアはだんまりだ。
 そんなグロリアを見て父の口から溜息が漏れる。
 よほど父の口から修道院か除籍かの選択が出たことが効いたのかそれだけでビクリとグロリアが震える。
 そんな様子ですら父は溜息をつきそうになるがグッと堪える。

 「セシル、お茶会の様子からしてどうだ?」

 お茶会でのグロリアのサポート役に回っていたセシルも父の執務室に呼ばれていた。
 グロリアは自分では決められないので私の意見を聞いて最終的には父が一人で決めることになるだろう。

 「そうですね。
 グエン様はお茶会には参加していましたが会話には一切入っては来ませんでした」
 彼は必要に迫られない限り愛想を振りまいたりはしない。
 また興味を示さない者にはどこかでも冷たい。
 勿論、相手によって対応を変えることもできる人だ。

 「会話に参加していたのはクリス様とロイ様ですね。
 あの方達は誰に対しても紳士的ですから」
 「ふむ。お前はその中で誰が良いと思う」
 「私個人の意見ですがロイ様はマルフォイ殿の件があります。
 今ようやく回復の兆しが見えて来たのであまり負担をかけたくはないのですが」
 ごめんね、クリス様と私は心の中でその場に居ない彼に謝った。
 「ではグロリアの婚約者はクリス殿にするか」
 「あくまでも私個人の意見ですが」
 「グロリア、クリス殿でいいか?」
 「・・・・・私は」
 そこまで言って黙ってしまう。
 本当にこの子と関わると私達は一体1分間に何回溜息をついているだろう。
 「それとも他2人に良い人がいるのか?」
 「・・・・いいえ」
 「ならクリス殿に決める。それで良いな」
 「・・・・・」
 「良いな」
 「・・・・・はい」

 父に強めに聞かれ、仕方なしとばかりにグロリアは頷いた。
 その姿を見て私と父は再び溜息をつきそうになったのをぐっと堪えた。

 その後はグロリアだけ先に部屋へ戻した。

 「明日からグロリアの家庭教師を呼んだ」
 「お母様が反対されたのではないですか?」
 「あれは明日から領地へ行くことに決めている」
 つまり領地へ幽閉を決めたのだ。
 「もっと早くこうしておくべきだった。
 グロリアのことも私は仕事に打ち込みすぎて現状に気づくのが遅れた」
 「いいえ、お父様。子供の教育はお母様の役目です」
 妻の役目は家の人事や子供の教育になる。
 そして夫の役目は家族を支える為に外で仕事をすること。

 「グロリアには今までサボっていた分しっかり学んでもらう」
 「はい。私もその方がよろしいかと。
 今日もそうですがあのままでお茶会など到底できません。
 嫁いだところでその邸の使用人にバカになれるのがオチでしょうね」

 使用人は平民の場合もあるが多くは礼儀を学ぶための未婚の貴族令嬢だったりする。
 その為、プライドが高く本来なら許されないことだが大人しい夫人をバカにしたり貶めたりすることがあるのだ。
 残念なことにそれは決して珍しいことではない。



 こうしてグロリアの再教育と婚約者が決定した。