二人はいろんな場所に行き、たくさんの思い出を作った。図書館、山登り、水族館ーーー。どこへ行っても二人は楽しそうで、誠は見ていて幸せな気持ちになった。

どうして知らないカップルのデートを見て幸せになるのだろう。誠は、今日何度目かわからない不思議な思いを抱く。

季節は巡り、大学三年生の春、二人は一緒に暮らし始めた。

二人が暮らす部屋は、誠が住んでいるアパートよりも古い。それでも、二人は幸せそうに笑っていた。

一緒にご飯を作って食べて、テレビを見て、喧嘩をしてしまった時は二人が好きな紅茶を淹れて仲直りをする。

特別なことは何一つない平和な日々。それでも、誠は目が離せない。見続けることがまるで義務のようだった。

「大学を卒業したら、僕と結婚してくれますか?」

ある日の夕食が終わった後、誠一郎が真紀子に訊ねた。

真紀子の目が驚きで見開かれる。誠も「ええっ!」と声を上げてしまった。今日は二人が付き合いだした記念日などではないし、どちらかの誕生日というわけでもない。

それにプロポーズしている場所は、どこかのレストランやデートスポットなどではなく、二人が暮らすアパートだ。

「あっ…指輪とかないし、ロマンチックなこととか何もないし、やっぱり……」