それでも、足は速度を緩めない。一刻も早くアパートに帰りたかった。

ドアを開け、誠は部屋に入る。安心して大きくため息をついた。

「ただいま」

部屋は暗く静寂に包まれている。いつもと変わらず当たり前だが、こんな日は誰かにそばにいてほしいとも誠は思った。

お湯を沸かし、カップラーメンの準備をする。誠は料理ができないわけではないが、手間取り時間がかかってしまう。

大学の先輩の一人は、自分のご褒美として誕生日にホールのケーキを買ったらしいが、誠はそこまでする気はなかった。

やかんが音を立て、沸騰したことを告げる。

「はあ…お腹すいた…。でもお湯を入れて三分か……」

誠がお湯を注ごうとしたその時、「誠」と小さな声で誰かが呼んだ。

「えっ?」

誠は辺りを見渡すが誰もいない。この部屋には、誠しか住んでいない。

空耳か、と誠はカップラーメンにお湯を注ぎ始めた。すると、また「誠」と呼ぶ声がする。

「誰だよ?」

謎の声がまた聞こえ、誠は少し怖くなった。