しかし、幸せはいつまでも続かない。これが、二人で過ごした最後の時間だった。

アパートの部屋に帰ってすぐ、誠一郎が真紀子に言った。

「ごめん。ちょっと買い物に行ってくる」

「うん、気をつけてね〜」

真紀子は玄関まで誠一郎を見送り、笑って手を振る。指輪が光に照らされ、煌めいた。

「行ってきます」

扉がゆっくりと閉まる。

ーーーその二時間後、真紀子のもとに届いたのは、誠一郎が交通事故で亡くなったという知らせだった。

「……えっ……?」

真紀子の体が震え、大きく見開かれた瞳から涙がこぼれていく。それは止まる事を忘れ、永遠のように流れ続けた。

お通夜もお葬式も、真紀子はずっと泣き続けた。誠は見ていることしかできないのが悔しく、もどかしかった。

父も、祖父母も真紀子に声をかけるが、真紀子はずっとうつむき泣いたままだった。

そんな生活が続いたある日、カレンダーをぼんやり見ていた真紀子が呟いた。

「……私……三ヶ月も来てない……」

真紀子の顔が真っ青になる。誠は何の話かわからない。

真紀子は薬局に行き、スティックを数本買った。それはーーー妊娠検査薬。

誠は驚いて固まる。

真紀子はトイレへと行き、しばらく戻ってこなかった。

誠はその間、ずっと緊張していた。もしも妊娠しているのなら、父が誰かわかる。それは、もうこの世にいない誠一郎だ。