「ひろ君っ!」

真っ暗な玄関に、菜々美の声が響く。
と同時に、体に衝撃があった。

腕を伸ばして受け止めたそれは、菜々美。
菜々美は力いっぱい俺にしがみついてきた。

「な、なに、どうした?」

「帰ってくるのが遅いから! 何かあったのかとっ・・・」

後半は涙声になっていた。
あぁ、心配させてたのか。

心の準備・・・というか、情けないけど、なかなか勇気が出なくて、帰ってくるのに時間がかかったんだ。

俺は菜々美の背中をゆっくりさすった。

ごめん、ヘタレで。

「遅くなってごめん。何もないよ」

そう言うと、菜々美は深く息をはく。
そして、しがみついた俺の服が家を出た時と違う事に気付いたようだ。