『いつもお世話になってるから』
 母のこの言葉で、金橋は今佐藤宅のチャイム前に佇んでいる。__饅頭を手に。
「ふう」
 一呼吸置き、暴れている心臓を抑えながら。金橋はチャイムを押した。
 -ピンポーン
 ......。
 反応無し。
「い、ない?」
 ほっとしているのか何なのか。
 これにより金橋は踵を返した。...が。
「あれ。金橋さん」
 硬直。             
 耳に届くのは、忘れるはずのない、あの低い声だった。
「さ、佐藤さん...」
 ぎこちなく振り返った金橋に、無邪気な笑顔を向けた、佐藤さん。
 __だめだ、眩しすぎる。
 そんな彼女の心の内も知らず。躊躇いもなく金橋との距離を縮める佐藤さん。
「どうしたの?」
「あ............お、お饅頭...持ってきまし、た.........」
 __これでは彼に不審がられる。
 金橋は佐藤さんに変な印象は与えまいと、言葉を繋いだ。
「そ、それにしても、ききき今日は天気が良いでしゅ」
 そこで固まった。噛んでしまったからだ。
 穴があったら入りたい、とでもいうような顔の彼女に対し。佐藤さんは笑っていた。
「クッ...面白いね」
 笑い過ぎて涙目になっていた程だ。
 やがて笑い終わると、佐藤さんは何事かを話し始めた。
「金橋さんて、可愛いよね」