「テストやばいんだけど...」
 昼休み。屋上で弁当を頬張っていたら、笹川が言った。
 金橋(かなはし)はその言葉に大きく溜め息をついた。
「楽しい昼休みなんだから、そういう話題は避けようよ」
 箸を止め、食べる気がなくなった、とでも言わんげに寝転がる金橋。
 笹川はそれに、
「行儀悪いー」
 とも言いながら、自分も寝転がる始末。
 気怠さ丸出しのこの2人は、全国一と知られる進学校を受験する15歳の少女たち。

「んあー。授業終わったー」
 数学の授業を終え、思い切り伸びをする笹川。まだ帰りの支度が出来ていない金橋に帰ろうと一声かけた。
「あ、ごめん。今日寄るところあるんだ」
 手を合わせ、自分の顔の前で手振りをしてみせた。
「ん、了解」
 生返事ですっと教室を出て行った笹川。
 数分後、帰りの支度をし、金橋は『寄るところ』へ歩を進めた。

 着いた先は古本屋。最近、古書にハマり始めたのだ。
 色褪せた若手小説家の宣伝ポスターが貼ってある自動ドアをくぐり抜け、好んでいるというミステリー作家のコーナーの前に立った。
 これが読みたいというものはなく、適当に手に取って開く。
 ____これがまた面白いんだよなぁ。
 適当に取ってみても、この作家の本はどストライクだった。
 
 読み込んでしまい、日が暮れていたことに気が付いたのは、午後7時半のことだった。金橋の親は厳しく、休日以外遊ぶことを許されなかった程であった。だからいつもは、午後6時辺りで切り上げて、受験勉強をしていたと嘘をつき、やり過ごしていた。が、さすがに今回は隠し切れないと思ったか、嫌々ながらも母親の携帯に連絡を入れた。
 -プルルルプルルル
 2コール目で出る。開口一番、母親は、
『この馬鹿!遅くまで何してたの!』
 今回、嘘をつこうとは思っていなかったが、毎度毎度「勉強していた」と言っているのだから、今回も勉強をしていたと思わないものか。