この空を羽ばたく鳥のように。





 突然ガタッと物音がして、思わずビクリと身体が震えた。

 何の音かと顔をあげると、向かいの部屋の雨戸が開き、そこから行灯の明かりが漏れ出ている。

 温かそうな明かりを背にして、喜代美が立っていた。



 「……さより姉上?」

 (……うそ)



 呼ばれて、胸が詰まる。

 今まで喜代美の温もりを求めていたから、当の本人が現れて動揺してしまう。



 「なっ……なんで起きてるのよ!?」

 「姉上こそ……今夜は闇夜ですよ。でも よかった。姉上が起きておられて」



 喜代美は嬉しそうに言うと、雨戸を閉めて濡れ縁を渡りこちらへやってくる。



 (もしや私の気持ちが天に通じたのか!?)



 いやまさかと内心ドキマギしたが、喜代美はお構いなしにとなりに座るとにっこり笑顔を向ける。



 「なっ……何!?」



 気持ちを見透かされたようで、恥ずかしくて目を合わせられない。



 「ちょっと興奮して眠れなくて……。だから早く姉上に打ち明けたかったんです」

 「えっっ!?」


 (こ、興奮!? 眠れない!? ううう打ち明ける!?)



 バカッ!! 何考えてるの私!!



 「あ……待って下さい。夜は冷えますよ」



 そう言って、あの満月の晩のように着ていた羽織りを脱ごうとするから、私はあわててそれを止めた。



 「いい!平気!構わないで!またあんたが “寒い"なんて言って、抱きつかれると困るから!!」



 ついさっきまで喜代美に抱きしめられたいと思っていたくせに、突き放してしまうあまのじゃくな自分が恨めしい。

 喜代美は困ったように笑いながら、それでも羽織りを脱いだ。



 「先達ては本当に失礼いたしました……。もうあんな情けない真似はいたしませんから。どうかご安心下さい」



 と、今夜は褞袍に羽織りに襟巻きにと、やたら着こんでいた喜代美は、
 私の肩に羽織りを掛けたあと、首から襟巻きもスルリと抜いてふわりと私の首に巻いてくれた。

 まるで最初からそうするために厚着してきたような……。



 「あ……ありがと」



 お礼を言うと、彼は目を細めて頷く。



 (――――あたたかい)



 いつもこうして喜代美は 私を優しく温かく包んでくれる。


 抱きしめてくれなくても、私の不安なんか、ほら。


 いつのまにか薄らいでしまう………。