この空を羽ばたく鳥のように。





 暗い夜空を見上げる。

 真っ暗で光さえ届かぬその先に、自分の未来を重ねて不安になる。

 心まで染めてしまいそうな闇が怖くて、つい手燭の灯りに映し出された景色の中に、光を追い求めるような気持ちで視線をさまよわせた。

 視線は、桜の木の枝にぶら下がる四角いものを捕らえてそこで止まる。

 昼間 喜代美が出かけて行ったあとに、下男の弥助に協力してもらいこさえたもの。


 使わなくなった一合枡(いちごうます)の両側に穴を開け、そこに細い縄を通しただけの簡素な作りの餌入れ。
 中には(あわ)(ひえ)などを入れている。


 少しでも多く、あのなんとかっていう小鳥が来てくれるように。
 そうすればきっと喜代美も喜ぶだろう。


 昼間 彼が見せてくれた、あのお腹の橙色が鮮やかな小鳥を思い出す。
 そしてその小鳥に、憧れと羨望(せんぼう)のまなざしを向ける喜代美の横顔が浮かぶ。


 あの時の喜代美は、会津から離れたずっと先の海の向こうを思い描いていた。


 あんな喜代美を見たから、私はこの家しか知らない自分の小ささに、虚しさに気づいてしまった。



 籠の鳥だと思った喜代美は男だから、いつかきっと飛び出す機会もあるだろう。



 けれど 女の私は――――。



 喜代美が飛び立っても、いつまでも籠から出られない。
 そのまま籠の中で朽ちてゆくだけの存在。

 女子ゆえに一緒についてゆくことのできない寂しさが、心の中に暗く悲しい陰を落とす。

 自分の行くすえに不安を抱き、つい身体を抱き寄せたくなる。

 冬の夜の冷えた空気が、私の心の芯までも冷やす。






 寒い。







 (……こんな時こそ、抱きしめられたいのに)



 優しく包まれて安心したいのに。

 私の生きる場所はここなんだと示してほしいのに。



 そっと まぶたを閉じる。



 あの満月の晩の、喜代美の温もりを思い出して自分を抱きしめる。