なんとなく素直に納得できなくて、目を伏せる私の脇を、ふいに一陣の風の如く黒いものが駆け抜ける。
「あっ!」
突然で止めることもできなかった。
物陰に隠れていた虎鉄が、障子の隙間から見える小鳥に気づき、狙いをつけたのだ。
部屋から飛び出した虎鉄は、小鳥めがけて庭の松に飛びつく。
「だめ!虎鉄!!」
止めようとして、私がうっかり障子を開けて身を乗り出したものだから、小鳥が驚いて飛び立っていってしまった。
「あ……ああ~……」
失敗……。喜代美にもっと長く見せてあげたかったのに……。
気まずいながらも振り返ると、喜代美は苦笑するだけ。
「ごめんなさい……」
「なぜ謝るんです。虎鉄から小鳥を助けようとしたのでしょう」
いや それだって、まだ若い虎鉄じゃあ、枝上の小鳥なんか捕えることなど出来ないと、冷静に考えれば分かることなのに。
「大丈夫。また来てくれます」
慰めるように優しく言われて余計落ち込んだ。
気まずいなと思っていると、ふいに玄関から救いの声が。
「ごめんください。喜代美くんはご在宅ですか」
自分を呼ぶ声に、思い出したように喜代美はあわてる。
「あ、いけない。儀三郎どのだ。今日は出かける約束だったのです。さより姉上、行って参りますね。夕方には戻ります」
「わかった。いってらっしゃい」
急ぎ支度を済ませて玄関へ向かう喜代美を、見送ろうとあとに続く。
玄関では、喜代美ほどではないが やはり背が高く落ち着いた風情の少年が佇んで待っていた。
目元の涼やかな、なかなか凛々しく賢そうな男子だ。
この子が篠田家次男の儀三郎どの?
彼は私を見かけると、丁寧な所作で黙礼してくる。
私もそれに応えて頭を下げた。
「お待たせして申し訳ありません」
「いや、大丈夫。まだ全員そろってないから」
謝る喜代美に、彼はゆったり笑みを滲ませる。
その表情もなかなか上品だ。
ふと おさきちゃんとこの騒がしい弟君を思い出し、
やはり反りの合う合わないは重要なのだなと妙に納得してしまった。
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