………羨ましいな。
男子ならまだしも、私なんか一生会津から出ることはないだろう。
それが当たり前だと思っていたし、別段苦痛とも思わなかった。
けれど……いつか喜代美が見聞を広めるためにこの会津を出て行くのなら。
私も行ってみたいと、その横顔を見つめながらふと思った。
(はっ、いやいや。喜代美は津川家の大事な跡取りだよ?)
数年の遊学ならまだしも、家を出るなんて父上が許してくださるはずないって。
喜代美もそれが十二分に分かっているから、余計に空を見上げるのだろうか……?
大陸からの小さな来訪者を見つめる喜代美の穏やかな横顔は、端整で柔らかで……少しまぶしい。
その瞳が切なく見えて、なぜだか喜代美が自由に憧れる籠の鳥のように思えた。
きっと実家の三男坊のままだったら、もっと身軽でいられたに違いない。
好きなことだけ熱心に目を向け、その道で身を立てられたかもしれない。
けれど養嗣子として津川家に迎えられた今は、この家をしっかりと守り、跡継ぎを残して次の世代に引き継がせてゆく大事な役目を担っている。
もはや自分の好きにはできない身の上だ。
喜代美は真面目だから、自分の立場をわきまえて真摯に役目を果たそうとするだろう。
けれどもしかして、大事な跡継ぎだと大切にされすぎる今の生活に、少し窮屈さを感じているのかもしれない。
※見聞……実際に見たり聞いたりすること。また、それによって得た知識。
※遊学……故郷を離れ、よその土地や外国に行って勉強すること。
.

