この空を羽ばたく鳥のように。





 いまいち反応の薄い私に落胆するでもなく、
 喜代美は四つん這いだった体勢をゆっくり起こしてあぐらをかくと、さらに言葉を付け加えた。



 「あの鳥は、遠い北の大陸からはるばるここへやって来たのですよ。海を越えて、この国へ」

 「えっ!? そうなの!? あんな小さな鳥が!?」

 「ええ そうです」



 頷くと喜代美は、遠いこの地へやって来たことを(ねぎら)うかのような優しいまなざしを小鳥に向けた。



 「なかなか来てくれなかったので、今年はもう見れないかと思っておりました」



 そして驚き顔で小鳥を見つめる私を見て満足そうに微笑む。



 「……もしかして喜代美がいつも縁側にいるのは、鳥を見ていたからなの?」



 答えを求めて見上げると、喜代美は肯定するかのように一段と目を細めた。

 そこへ思い至ると、得心がいく。

 何をするわけでもなく、いつも笑みをたたえて空を見上げていた喜代美。

 その姿は、時おり楽しそうで、時おり寂しそうで。

 それは京の遠い空に思いを馳せるのではなく、
 空を自由に飛びまわる鳥達への憧憬から夢を膨らませる時間だったのか。



 「あの鳥は、空からどのようにこの日本を見ているのでしょう。この国の動乱が、どのように映って見えるのでしょうね……」



 ぽつりとつぶやかれる言葉に、己の身の虚しさを感じる。
 言葉は途切れたけど、「私も見てみたい」と続くかと思った。



 私達は、この会津から一度も出たことがない。

 今の私達の生活はつましいながらも穏やかだけど、殿さまがおられる京や幕府の中枢である江戸では混乱が絶えないという。

 喜代美も会津を出て、お父上と共に殿のおそばで働きたいと願うのか。
 それとも海を越えて外の国を見てみたいと思っているのか。

 胸の内にそんな夢を温めながら、彼はいつも空を仰いでいたのだろうか。