この空を羽ばたく鳥のように。





 私はそっと、寝間着の袖を引いた。



 「そんなことあるはずないわよ。父上はちゃんと喜代美の良さを分かってる。
 たとえ父上が兄君がたを気に入ったとしても、それは喜代美の兄君だからよ。跡取りとは別の話だわ」

 「……そうでしょうか」

 「バカね、決まってるでしょ!後ろ向きに考えてんじゃないわよ!」



 いつまでも拗ねている態度にイラついて、勢いよく喜代美の肩をバシンと叩く。



 「姉上だって、あんなにきれいに着飾っていたじゃないですか。
 姉上ももう嫁いでいい年頃ですからね。見初(みそ)められたい気持ちがあったっておかしくない」

 「なっ……!! 何よそれ!バカなこと言わないでよ!! 見初められたいなんて、これっぽっちも思ってないわよ!!」



 叩かれた肩をさすりながら反論する喜代美に、腹を立ててさらにもう一発くれてやる。



 「あれはねえ!あんたに恥をかかせたくなかったからよ!! だから必死に着飾ったってのに!なによ!」

 「私の、ため……?」



 ポカンと口を開けて見つめる喜代美に、くやしくて腹立たしくてならない。
 年頃の若者に(こび)るために着飾ったと思われるなんて!



 「……まことですか?」

 「当たり前でしょっ!? 他に何があるっていうの!?」



 あまりにもくだらないことを言うから、腹が立ちすぎて何度も何度も拳で肩を叩く。



 「私の気も知らないで!もうバカ喜代……!」



 突然 叩く拳を制するように、振り上げた腕を掴まれた。
 そのまま力まかせに強く引かれ、喜代美の胸の中に抱き寄せられる。
 いきなりのことに驚いて、抗うように身をよじって叫んだ。



 「ちょっと!離してよ!バカ喜代美!」

 「いやです。離しません。……たしかに私は、大馬鹿者ですね」



 背中にまわされた手に力を込められ、一瞬 頭が真っ白になる。

 叩かれるのを防ぐために抱き寄せたんじゃない。
 これって………。



 「……寒い、です」

 「はあ!?」

 「しばらくこうさせて下さい」

 「えっ、なんで!?」

 「ほら、虎鉄を抱くと温かいでしょう?それと同じです」

 「私は猫かっ!寒いなら褞袍返すから着なさいよ!!」

 「返さなくていいです。このほうが温かい」

 「まったく!私 怒ってるのよ!?」

 「はい。申し訳ありませんでした……」