その夜はなかなか寝つけなかった。
喜代美の両兄君が来て、気を張りすぎたからかもしれない。
床にもぐるも目が冴えて、無理に眠ろうとするのはあきらめた。
考え抜いたすえ、外の景色でも見ようかと、部屋を出て中庭の雨戸を開ける。
「わ……!」
外は昼間降り積もった雪が、満月の光りに照らされて玲瓏と輝いていた。
中庭を埋めつくす一面の銀世界に心を奪われ、その光景をしばし眺める。
「キレイ……」
一歩 濡れ縁へ出た。
と、まるで景色の一部になっているかのごとく、縁側に腰かけた喜代美の姿が青く淡い光りに美しく浮かび上がる。
「!! きよ……っ!」
喜代美のほうはすでに私に気づいていて、こちらに向けた顔に複雑な表情を浮かべていた。
「あんた、ここで何してんのよ!?」
「……月がきれいで。ひとり眺めておりました」
「なんで私を呼びに来ないの!? いつもは頼まなくても呼びにくるじゃない!!」
そう。普段の喜代美は、たとえ私が部屋で眠っていようとも、見せたいものがあると必ず呼びに来て、引きずり出していたのだ。
けれど喜代美は、ふいと顔をそらせて小さく反抗する。
「……私だって、たまにはひとりで見たい景色もあります。
それに姉上だって、私が呼びに行くと面倒臭そうな顔をなさるじゃないですか」
「そっ!そっれっはっ……!」
「もう いいです。夜は冷えますよ。早くお休みになって下さい」
喜代美は私を上目使いに見上げ、拗ねたように冷たく言う。
絶対 変。両兄君が来られてから、喜代美は様子がおかしい。
そもそも私は、こんなに子どもっぽく拗ねている喜代美を今まで見たことがない。
「……寒さが何よ!この景色を独り占めしようったって、そうはいかないわよ!」
私はどかどかと足を踏み鳴らして濡れ縁を回ると、喜代美のとなりにどっかり腰を降ろした。
「呼びに来なかった仕返し!意地でも一緒に見てやるからね!」
睨みつけて言ってやると、私の迫力に驚いた喜代美はぷっと吹き出した。
「……まったく!あなたって人は……!」
※玲瓏……さえざえと美しいさま。
※濡れ縁……雨ざらしの縁側。
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