喜代美の両兄君は、たっぷり夕刻までおられた。
「父上がお戻りになられるまでは」と、母上がお引き留めしたからだ。
彼らは夕餉も一緒に食べてゆくことになり、私はよそいきの着物を脱ぐことができず、そのままの格好で彼らの夕餉のお給仕をするハメになった。
八郎さまには先ほどのことがあったせいか、なぜか緊張してしまう。
それなのに、ご飯のおかわりをよそった碗を八郎さまにお渡しするとき、受け取る八郎さまの手が私の手と重なり、
不覚にもまた頬が赤くなってしまった私は、父上や金吾さまのからかいの対象になってしまった。
「いや、あのおてんばなさよりがなあ!こんな娘らしい恥じらいを見せるようになったか!」
と、父上は変なところで娘の成長を感じて満足しているし、金吾さまも、
「私も、八郎がこのように女子の扱いが巧みだったとは知りませんでしたよ!」
と、すっかり感心してしまっている。
「私はそんなつもりでは……!津川さまも兄上も、もうお戯れはおやめ下さい。さよりどのが困っておられましょう。
さよりどのも……私のせいで困らせてしまい、まことに申し訳ありません」
「い……いえ、こちらこそ……」
八郎さまは迷惑がることもなく、困ったように笑うだけ。
そのうえ私を気遣う言葉をかけてくださるから、私の頬はまたまた赤くなってしまう。
そうして彼は、ますます父上や母上、金吾さまを感心させていた。
そんななか、喜代美だけが黙々とご飯を口に運んでいる。
喜代美はさっきから何も話さない。
まるで自分はそこにいないように、ひっそりと息をひそめて黙りこくっている。
主に盛り上がっているのは父上と金吾さまで、喜代美は時どき振られた話に穏やかな笑みを浮かべて答えるだけ。
「き……喜代美、おかわりは?」
私は逃げるように脇に来て訊ねた。
目が合うと、喜代美はあわてて目を細める。
「いえ、私はもう結構です。姉上ももう給仕は必要ないでしょうから、席について召し上がったらいかがですか」
「……うん」
喜代美……やっぱり目が笑ってない。
両兄君が来てるのに。
………どうして?
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