この空を羽ばたく鳥のように。





 戸惑いと恥ずかしさで顔ばかりがどんどん熱くなり、すっかり困ってしまった私を見て、今度は反対に金吾さまが八郎さまをたしなめた。



 「おい八郎、喜代美の前でさよりどのを口説くとは、たいした度胸だな!
 かわいそうに、真っ赤になって困っているじゃないか!」


 「口説くだなんてそんな……。ただ、勇ましい反面、女性らしい一面もあるのだなと感心いたしたところです。
 さよりどのを困らせたのなら謝ります。本当に申し訳ない」

 「い、いえ……」



 軽く頭を下げたあと、八郎さまも照れ隠しに笑ってみせる。


 やっぱり血を分けた兄弟ね。
 笑うと喜代美に似てる。


 赤くなる頬をなんとか抑えようとしながら、八郎さまの笑顔をちらりと見て思う。



 「―――さより姉上」



 つと面映ゆい雰囲気を打ち消すような、喜代美の凛とした声が響いた。
 呼ばれて振り向くと、口角だけを上げている喜代美の笑顔。



 「私の茶は結構です。姉上も仕事が途中のままでしょう。
 こちらは構わなくてよろしいので、ご自分の仕事に戻られて下さい」


 「あ……うん。わかった……。
 それでは両兄君さまも、ごゆっくりなされてください」

 「かたじけない」


 私はおふた方にお辞儀をして立ち上がる。
 喜代美を一瞥してから、静かに客間を退出した。

 

 (……笑顔のはずなのに。喜代美の目、笑ってなかった)



 まるで、兄弟水入らずの時間を邪魔するなと言われた気分だった。










 ※面映(おもは)ゆい……照れくさく感じる。恥ずかしい。

 ※一瞥(いちべつ)……ちらりと見ること。


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