断りを得て所作に気をつけながら、ゆっくりと身体をずらしてうつむきがちに部屋の中へと入る。
襖を閉めると、すぐに金吾さまが声をかけてきた。
「いやあ、参りましたな!喜代美から、さよりどのは気丈で勇ましく、物怖じしない方だと聞き及んでおったので、どれだけ大きくたくましい強気な女子が現れるかと思っておりましたが、いやまさか、こんな華奢できれいな娘さんが現れるとは!」
「は……?」
照れ隠しなのか、ハハハと辺りを憚らずに笑い声をあげる金吾さまに、ポカンとしてしまう。
「兄上。そんなふうに申されてはさよりどのに失礼ですよ。喜代美にも叱られます」
となりの八郎さまが困ったように、うつむきがちに兄君をたしなめる。
『華奢できれい』なんて言われたことないから、褒め言葉としてありがたく受け取っておこう。
だが、あとの残りは全部失礼だ。
心の中だけで「喜代美め、余計な入れ知恵を」と 舌打ちしたが、そこはそれ、面には出さずに私は挑戦的な目を向ける。
「これでも私は、幼い頃より薙刀に精進して参りましたゆえ、そこらの軟弱な男子に負けるつもりはございませんよ」
悠然とした態度で喜代美を真似て慣れない微笑みを作ると、「ほう」と、金吾さまどころか八郎さままで驚いて私を見つめてくる。
「さ、お茶をお召し上がりください」
さらりと流して、さっさと仕事をこなす。
金吾さまにお茶とお菓子を差し出したとき、襖の外から声がかかった。
「失礼いたします。喜代美です。入ってもよろしいでしょうか」
喜代美が友人宅から戻ってきたようだ。
よかった。私はこれでお役御免。
「喜代美か!待っていたぞ!」
金吾さまが応えると、喜代美は襖を開けそのまま平伏する。
「金吾兄上、八郎兄上。ようこそお越し下さいました。
不在をいたしておりまして誠に申し訳ございませぬ」
「いや。報せも出さずに訪ねた我らが悪いのだ。お前もこちらで親しい友人ができたようだな。何よりだ」
八郎さまが穏やかに声をかけると、喜代美はゆっくり顔をあげる。
と、ちょうど八郎さまにお茶を出し終えた私に気づき、喜代美は目を大きく見開いた。
まさか私が兄君がたと一緒にいるとは思わなかったらしい。
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