とりあえず失礼がないよう、よそいきの着物に素早く着替える。
さすがに振袖までは着れないけれど、これも上品な小花の刺繍があしらわれた薄紅梅のおとっときの着物だ。
ふと以前 早苗さんがつけていたなと思いつき、
髪も香油で整えたあと、南天に見立てた小さな赤い玉のついた簪とお揃いの櫛なんかもさしてみる。
そしていつも身につけている匂い袋を帯の中に挟み込んだ。
(どうだろう?喜代美が恥じることのない姉に見えるだろうか?)
鏡の前でくるりと回ってみるものの、早苗さんのような華やかな娘になれる訳でもなし。
私にはこれが限界だとあきらめて、お茶とお菓子を運んで客間へ向かうことにした。
喜代美のふたりの兄上さま。
いや 正確にいえば、長兄の金吾さまは喜代美の叔父にあたるのだっけ。
次兄の八郎さまは、喜代美の本当の兄君だけど。
私はまだおふた方に、お会いしたことがなかった。
(……どんな方達だろう?)
客間の前までくると、緊張した。
「失礼いたします。お茶をお持ちいたしました」
声をかけると襖を開け、手をつかえて深く頭を下げる。
「ようこそおいでくださりました。お初にお目にかかります。津川瀬兵衛が末娘、さよりと申します。
ご挨拶が遅くなり、まこと申し訳なく存じておりました」
「おお、そなたがさよりどの」
声をかけられ顔をあげると、ふたりの若者が端然と座ってこちらを見つめている。
おふた方とも、身体が大きくたくましい。
私に近い、下座に座るお方のほうが八郎さまだろうとすぐ察しがついた。
私とそう変わらない年に見えたし、日新館で鍛えられた精悍そうなお顔の中でも目元が喜代美とよく似ている。
背は高いが痩せていて、どちらかというと中性的で優しい面差しの喜代美とは違い、
男らしく力強い印象を受け、とても頼もしそうに見える。
もうひとりの、たぶんこちらが金吾さまだろうお方は、お顔の印象がまた違う。
年も二十歳はゆうに越えているだろう。
角ばったお顔をされているのに、なぜか雰囲気が優しい。
くりくりとした丸い目に、愛嬌がある。
本人はその目で、興味津々な視線を私に注いでいた。
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