「もうし。お頼み申す」
機織りを続ける私の耳に、玄関からおとないを告げる男の声が聞こえた。
どうやら客人のようだ。
応対に出た弥助に取り次がれ、母上が出迎えたのだろう。
「……あらあら!まあまあ!この雪の中を、ようこそお越しくださいました!
さあどうぞ、上がってお待ちくださいまし!」
客人に対して、母上は珍しく、とても弾んだ声で応対する。
いったい誰が来たのだろう と、私も機を織る手を止めて機織り部屋から顔を覗かせると、
母上が私のところへ小走りでやってきてあわてておっしゃった。
「さより、急いで着替えなさい!」
「はあ?なぜですか?」
突拍子もなく言われて不服げな声をあげると、それに対して母上はしかめ面で返す。
「喜代美さんの両兄君がおいでになられたのよ!
今 源太に喜代美さんを迎えに行かせたから、それまでお前、失礼のないようにお相手していてちょうだい」
「ええ~!私がですかっ!? みどり姉さまは……」
言い止して、みどり姉さまは数日前から風邪をこじらせて床についていたのだと思い直した。
残念。こういうお客様への応対は、典型美人で所作も会話も申し分ないみどり姉さまが適役なのに。
「いいから早く!」
叱られるように言われてはしかたない。
急き立てられて、私はしぶしぶ身なりを整えに自分の部屋に向かった。
※言い止す……言いかけて途中でやめる。
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